染まるならが青がいいって、そう思うんです。そう、青色が。海で、空で、あなたの色だから。海のような世界って、素敵ですよね。人魚姫みたいな。あんな悲しい話が好きなわけじゃ、無いですけど。そう、青はあなたの色です。綺麗な色だって、いつも思っています。青色を見ると、静かで、でも優しくて、そうして強い意思を感じます。それは青色じゃなくて、貴方のことを思い出してるんだって気づいたとき、また一つ貴方に染められてることに気づいて、嬉しくなりました。
難しそうに言いましたけど、なんの話かって、家具の話です。二人で暮らす部屋の家具の、色の話です。凛ちゃんとお付き合いを始めて、しばらく経って、一緒に暮らすようにことになりました。えへへ。嬉しいな、と思います。お仕事とか、デートとかだけじゃなくて、二人でいることが自然になるって、なんだか素敵なことだと思いませんか。そう凛ちゃんに言ったのは、一緒に暮らすことを決めた次の日だったような気がします。その時の凛ちゃんは、私の言葉を聞いて頬を紅くして「時々卯月ってすごい恥ずかしいこと言うよね」って言って、目を逸らしてしまいました。いつもみたいに凛とした凛ちゃん、ってダジャレみたいになっちゃいましたけど、もカッコよくて好きですけど、照れたときの凛ちゃんはとっても女の子らしくて、可愛いんです。凛ちゃんが照れた顔はきっと私が一番見てるんだと思うと、なんだか誇らしげな気持ちになって、少し胸を張ってしまいます。
ええっと、話がそれちゃいました。なんの話でしたっけ。そう、家具の話でした。話がそれちゃうって、よく言われるんです。この前も未央ちゃんに「しまむーはコロコロ楽しそうに喋るよね」と言われてしまいました。コロコロ楽しそうにってどんな感じなんでしょうか。ってそうじゃなくて、家具の話をしてたんでしたね。そう、二人で生活することに決めてから、私と凛ちゃんがそれぞれ持ってたもので足りないものを二人で買うことにしたんです。例えば、カーテンとか。炊飯器はお母さんが家で使いますし、机も新しいのを買うことにしました。そうしてリストにまとめて、今日二人で見てまわっていたのです。私と凛ちゃんは二人ともアイドルを続けていて、凛ちゃんはとっても人気があります。私は凛ちゃんには敵わないかもしれないけど、でも頑張ってます。そうそう、この前出したシングルはデイリーランキング、で3位だったんですよ!嬉しかったなぁ。そう、なので、二人ともすっごいお金に余裕があるってわけじゃないですけど、好きな家具を買うことはできました。二人で貰ったおやすみの日に、一緒に大きめの家具屋さんにいって。カバンには昨日の夜に二人で話し合って書いた買い物リストがあって。凛ちゃんが几帳面に書いた買い物チェックのための四角は、もうほとんど埋まっていて、あと2、3個で買い物は終わりでした。
家具はいろいろ見ました。食器も見ました。凛ちゃんにどういうのがいいか聞いたら、シンプルのがいいって言ったので、ほとんど全部白色の模様無しのお皿になりました。ふたりでお揃いのマグカップも買いました。私がピンクで、凛ちゃんが青色のです。あとはお布団も見ました。柔らかい羽毛布団で、青色の花がらのにしました。二人でする買物は楽しくて、ついついはしゃいでしまって凛ちゃんに叱られました。ごめんなさい。
そうして二人とも車なんて持ってないですから、家に届けて貰うものの控えが多くなっていきました。女性の方が届けに来てくれるとのことなので、安心です。
「だいぶ見たね。あとは」
「カーテン、ですね!」
机の上の電気スタンドを買って、クレジットカード用のサインを書き終えた凛ちゃんが言った言葉を私が引き継ぎました。
カーテン売り場はたくさんの布が並べられていて、とても鮮やかだと思いました。こういうのって、なんだかとってもどきどきしますよね。全部が手に入るわけじゃないのに、たくさんあるだけでうれしくなるというか。どうしてなんだろう。
「凛ちゃんは、どれがいいと思いますか?」
そう聞くと凛ちゃんはいつもの真剣な表情になりました。この時の凛ちゃんの表情が好きです。吸い込まれるような目だったり、真面目になった口だったり、というのも好きなんですけど、真面目な中にもどこか感じられる暖かさだったり、そんなことも好きです。
「私は、これがいいと思うけど…」
そういいながら凛ちゃんが指したのは、淡い水色と、青色の曲線が描かれているものでした。これなら今日、今まで買った家具とも合いますし、いいなと私も思います。
「じゃあ、これにしましょう!」
そう言った私に、何故か少しだけ凛ちゃんは眉を下げるような表情になりました。この表情を見ると、あんまり凛ちゃんのことを知らない人は機嫌が悪いのかな、とか、怒ってるのかな、とか考えちゃうんですけど、これはどちらかというと、困っている時の凛ちゃんの表情なんです。わかってもらえないので、怒ってる時はもっと体が震えるような表情なんです!って事務所の友達に説明したら呆れたような表情をされました。悲しいです。
「どうかしましたか?」
凛ちゃんは自分にとって小さいことだと思うと、思ってることがあってもあまり声に出さないんです。本当に大切なことには真剣に話してくれて、それがかっこいいんですけど、そうじゃないときは実は黙ってることが多かったりするんです。だからそういうことも聞いてあげたいな、って、私はいつも思って、凛ちゃんの意見を聞くようにしています。恋人、ですし。ちょっと恥ずかしいですけど。
私が尋ねると、凛ちゃんはすこしだけとまどったような顔をしてから、喋り始めました。
「卯月は、いいの?」
「え?」
「家具、さっきから私が選んだものばっかりじゃない」
「あ。」
「卯月が欲しいものとか、ないの?」
凛ちゃんはそういうととても心配そうに私を見ました。普段の凛ちゃんは凛々しくて、かっこいいんですけど、こういう時の凛ちゃんはなんだかそう、子犬みたいなんです。初めて凛ちゃんの家に遊びに行った時に、凛ちゃんが飼ってるワンちゃん、ハナコちゃんっていうんですけど、その子が遊びたそうに鳴いていたのでかまってあげてたことがあって。可愛くて、その子が。だから凛ちゃんをほったらかして遊んでたんですけど、ふと気付いて凛ちゃんの方を見たら、凛ちゃんが私の方をみてたんです。とっても寂しそうな顔で。その時の表情が可愛くて可愛くて、思わずハナコちゃんにやったみたいに頭をなでてあげたら、恥ずかしそうに嬉しそうにしてくれました。可愛かったなぁ。じゃなくて、その寂しそうな凛ちゃんの顔がハナコちゃんがかまってほしそうにしてた時の雰囲気とそっくりで、やっぱりペットと飼い主って似るんだなぁと思ったことを思い出しました。
「凛ちゃんが選んだものだから、いいんです」
「え?」
私がふふ、と笑いながらそういうと不思議な顔で凛ちゃんが見つめてきました。
「凛ちゃんが選んだものに囲まれて暮らすのって、素敵だなって思って」
私がそう言うとすこしずつ凛ちゃんの頬が赤くなっていきました。かわいいなぁ。りんごみたい。私の頬もちょっと暑くなっているのは、気付かないフリ。
「凛ちゃん、顔まっかですよ」
「…卯月だって」
「えへへ」
「…えへへ、じゃないよ。まったくもう。」
そういうと凛ちゃんは目をそらしてしまいました。首筋までまっか。かわいい、と思います。こういう凛ちゃんが見られるのも、私だけなんですよね。えへへ。ちょうどカーテン売り場には誰もいなかったので、良かったです。こんな凛ちゃん、誰にも見られたくないですから。
「何笑ってるの」
「凛ちゃんはかわいいなぁって思って」
「…っもう、行くよ」
照れ隠しのようにそういうと凛ちゃんは先に歩き始めてしまいました。慌ててカーテンの予約用紙を持って追いかけます。
「待ってくださいー」
「卯月なんて知らない」
「えー、ひどいです」
「思ってもないくせに」
「凛ちゃんだって、思ってないでしょう?」
「…」
沈黙は肯定とみなしますよ、とふざけて重々しく言ってみたら凛ちゃんはまた黙ってしまったので、私は凛ちゃんの腕に飛びつきました。私より細身のはずなのに、凛ちゃんに抱きついてるとなんだか安心するんです。どんなに拗ねてるふりをしても、抱きついた私をみてしょうがないなって顔をしてくれる凛ちゃんがやっぱり好きです。
それこれしている内に、ベッドコーナーにたどり着きました。あと買わないといけないものはベッドだけになっていました。さっきまでのようにどうしましょうか、って聞こうと思ったら、凛ちゃんがすこし大きな声で言いました。
「ベッドは、卯月が決めてよ」
「えー」
「だって、私ばっかり決めてるんだし」
「でも、さっきまで凛ちゃんの趣味に合わせていましたし、凛ちゃんが決めたほうがいいと思います」
「そうかも、しれないけど」
はめられた…と凛ちゃんがつぶやきました。作戦成功です。
「じゃあ、これで」
と凛ちゃんが諦め顔で決めたそれを私も気に入りましたから、買い物は終了です。会計に行きましょうと、と歩き出そうとした私を凛ちゃんが止めました。どうしんたんでしょうか。
「サイズは?」
「え?」
「ベットのサイズ。どうするの?」
「あぁ、そうでした…」
すっかり忘れていました。凛ちゃんがこれぐらいは卯月が決めてよ、というのでサイズの一覧とにらめっこします。ベットのサイズって不思議ですよね。シングル、とかはわかりますけどキングとかクイーンとか、もともとは大きさを表すわけじゃない言葉を使ったりしますし。そう思いながら考えていたら、ふといいことを思いつきました。
「これがいいです」
そう言いながら私が指したのは、シングルワイドサイズでした。それを見た凛ちゃんが、すこし不思議な顔をして私を見つめます。
「もうちょっと大きくてもいいんじゃない?」
「これがいいんです!」
「…そう、ならいいんだけど」
すこし納得してない表情をしながら、凛ちゃんは気づいていないんです。ベットが小さい方が、私がもっと凛ちゃんにくっついて眠れるってことに。えへへ。一緒に同じベッドで眠るとき、凛ちゃんにぴったりくっつくいて寝られる、そういうことが、幸せだったりするのです。
「へんな卯月…」
凛ちゃんが私をみてつぶやきました。そんなに頬が緩んでしまっていたでしょうか。幸せだから、しかたないです。そう言い訳すると、また凛ちゃんの腕に飛びつきました。シングルワイドのベッドで一緒に眠るようになるまで、あと一週間です。