Sayonara VoyagE

Use me like an oar and get yourself to shore

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「よかった」と囁く自分なんて、本当はそこにはいなかったのだ。

今までと同じように作り上げた完璧な「自分」は、今にも崩れそうで、だからこそ私はもっと完璧な人間になれるように、心からまた笑うことができるようにと、一歩前に踏み出した。
踏み出した、踏み出せた、そのはずなのに。


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「…また」
最近はっきりと自覚できるほど多くなったひとりごとをぽつりと溢したように呟くと、それは部屋の中で確かに響いて、ふわりと消えた。
朝目が覚める度に感じる、毛布の湿り気が何によって生まれたのかなんて、自分が一番いやというほど、わかりきっていたことだった。また、いつのまにか、涙を流していたのだろうか。ひどくぼんやりとして、不確かな記憶を自分の手でかき分けるように探ってみるけど、昨日は、どうやって自分がベットに入って眠りについたか、その記憶さえなんだか、朧気だ。まるで、いまの私の心のようで。そんなものがあるのなら、だけれど。

そうだ思い出した、と一人答えを見つける。昨日はギリギリになるまで、本を読んでいたのだ。ダンス資料をもう一度読み直せば、もっと自分ができていないところが、たりないところがまた、見つかるんじゃないかって。ダンスの映像は見なかった。見れなかった。あの時のことを思いだして、なんだか泣いてしまいそうだったから。そうして、資料を読むことに夢中になっていた私がふと顔をあげると、『言わんこっちゃない』、自分の部屋の時計が、健康的なアイドルが寝るべきと言われている時間から、もう長い針が360度とあとすこしまわっていたことを示していて、私は慌てて資料を自分の練習用のバッグに乱雑に詰め込んで、そうしてもう先に整えてあったベットに入ったのだった。今日こそは、涙を流さないですむかなと、いつかレッスンの日にあの子と一緒に見た、淡い淡い夕焼けよりもずっと淡い淡い、希望を抱きながら。

そんな淡い希望は当然のことように私をすくってくれはしなかったんだと、お気に入りのふっかふかの毛布の顔の近くの、ほんのりと湿った部分のその冷たさが教えてくれる。ああ、また今日も、目のくま用のメイクの出番だと、独りごちる。
『何かと便利だから、覚えておきなさい』と、アイドルにおいても、人生においても、そして女の子としても先輩である、楓さんから教えてもらったその特別な魔法は、たくさんの「今日も」を繰り返して、もう自分の手に染みこんでしまった。そういえば、楓さんが最近私を見て、何か言いたそうな、とても複雑な表情をしているような気がするのは、つまり、そういうことなのだろうか。あの人は優しくて、そしてとても賢い人だから。そんな他人の目を気にしているほど、自分に余裕がないことは、わかってほしいという、ただのわがままを口にしたりはしない。

鏡の前に立って、自分の醜い、見たくない跡を隠す魔法をかける前に、そうっとおまじないをする。メイクのような確かなものじゃないけれど、その儀式のような何かは私を確かに支えていてくれる気がした。確かにある、その効能に、私はなんだか、依存しているようで。
洗面所に鏡に真正面に映り込むように立って、自分の頬を二回、両手で叩く。そうして、ちょっと気持ち大きめの声をだすために、深く深くはっきりと自分の耳に届くくらい、息を吸い込んで、そうして吐き出すのだ。
「新田美波、行きます!」
もう一度覗き込んだ私は、うん、大丈夫。アイドルとしての『新田美波』だ。

そうして私は魔法をかけて、作っておいた朝ごはんを食べて、今日の予定を確認する。今日は、講義が午前中だけあって、あとはレッスン。その時にアーニャちゃんに会えるから、昨日気づいたできていなかった点を伝えて、そこを一緒に練習しよう。もしかしたらアーニャちゃんなら、もう気づいているかも。
鍵を探すのに少し手間取る。ドアを完全に締め切る前に、私は部屋にむかって声を出すのだ。これも発声練習、と。

「いってきます!」


[newpage]



「やめて、美波」


そのはずだったのに。私はアイドルとしての新田美波の、はずだったのに。

「美波、それ以上はだめです」
二人しかいない、さっきまで私のステップしか響いていなかったはずの練習場にアーニャちゃんの声が反響して、なんどもなんども、壁と、床と、その他の機材と、アーニャちゃんと、そうして私に吸い込まれていく。彼女に掴まれた手は、なんだかとても冷たくて、アーニャちゃん、こんなに手、冷たかったっけ。ああ、そうか、自分が熱くなってしまっているのかと、呆けた頭でも気づいた。
そうして私をアーニャちゃんがひどくひどく苦しそうな顔で見つめていることに気づいて、胸が張り裂けそうになる。ああ、ごめんね、アーニャちゃんにこんな顔させたかったわけじゃないのに。あなたの素敵な笑顔のために、私は頑張っているはず、なのに。自分がもうわからなかった。あなたを納得させるための言葉を紡ぎ出そうとするけれど、何故だろうか、声がなんだか、出てこない。

「美波、ダメです、顔も紅いです」
アーニャちゃんの声が、私の中を響いていく。
アーニャちゃんの声、優しくて好きなんだ。まるでとっても高級なシルクのようにスラスラと流れていって、それでもなんだか暖かみがあって、優しくて、聞いているだけでうっとりしてしまいそうになる。その声が今の私には残酷なことを伝えていて、泣きたくなるのだけれど、それをアーニャちゃんに言わせたのは、他でもないこの私なのだということを知りたくもないのに知りすぎているのに、私は気づかないふりをしようとする。
いつでも優しくて、本当に優しすぎるぐらいのあなたは、私を必死で止めようとするけれど。それがあなたが心から、私のために言ってくれているというのも、十分過ぎるほど、痛すぎるほど、理解しているのだけど。それでもごめんね、私は今、あなたの声を聞けそうにないの。聞けないの。私が壊れてしまいそうだから。

そうして苦しんで私の口からこぼれてきたのは、醜い醜い今の私のような、言い訳だった。
「…大丈夫だから、あと、このステップの確認が終わったら、レッスン、終わりにするから」
「ダメです」
アーニャちゃんがその声にはあまりにも似合わない、強い言葉を使ってまで、私を止めようとするようになったのは、あの日からなのだと気づいてしまったのはいつだっけ。私が迷惑をかけたばっかりに、私がダメだったばっかりに、私を深く深く思ってくれるアーニャちゃんが愛おしくて、そうして私が、あまりに情けなくて、悲しくて、悔しい。ふと涙が零れそうになるのを、必死でこらえる、泣いてはダメ、泣いてはダメよ、美波。そうして自分の心をなんとかなんとか封じ込めてみるけれど。もう心の器に入りきらなくなってしまったぐらいの悲しみが、悔しさを、必死で詰め込んでみれば、それは飛び出そうとやっきになるもので。
胸が、張り裂けるように、苦しい。


アーニャちゃんが私の肩をつかんで、自分の正面に私を向ける。ああ、少し背が伸びたのかな。はじめて会った時よりちょっと体がしっかりしていて、なんだか心配になるぐらいの彼女はもういない。彼女の目は真剣だ、飲まれてしまいそうだ。彼女はこれだけ成長したのに、大きくなったのに、私ときたら、わたしは、なんにも。

「美波、顔赤いです、息も、上がってます。レッスン、おしまいに」
もうあなたの声を聞いていられなかった。自分の心が壊れてしまう前に、彼女を離したかった、それだけのはずなのに。

「大丈夫だから!」

そうして突き飛ばしてしまったのは、私の心と、彼女の体で。自分の手が何をしたのか、理解できなかった。彼女がよろめいた時の足音と、体勢を立て直した時のアーニャちゃんの、驚いたような、何かに裏切られたような表情が、私が何をしてしまったのかを、厭らしいほどはっきりと、私の脳みそに、届けてくれた。一体何に裏切られたのかなんて、わかりきっていて、わかりすぎて、アーニャちゃんの目が、視線が、私のあるのかもわからない心を、鋭いナイフで抉るようだった。「本当に傷ついているのは、彼女のはずなのに、いい被害者ぶって」と、少しだけ自分の中にある、冷静な私があざ笑う。

「…ごめん、アーニャちゃん、私」

伝えようとしても何も伝わらないのだ。私の口から生まれて、そのままこぼれていく言葉たちは、どこまでもどこまでも、地球の中心まで落ちていくようで、何一つとしてアーニャちゃんに届けてくれなかった。

「ごめんなさい、美波、私言いすぎました」

死刑宣告を聞いたようだった。そう言ってくるりと綺麗に回って、私に背を向けるアーニャちゃんが、まるでどこまでもどこまでも遠くに行ってしまうように、そう思ってしまった。ドアの方に歩いて行ってしまった彼女の背中に、もどかしく手を伸ばすのだけれど、たった3メートルの距離が、あまりにも今の私には遠く見えて、声をかけることすらできなかった。許されないような気がして。

気づいたら彼女は、練習場と外をつなぐ唯一のものであるドアのノブを、その手で掴んでいた。そのまま力を込めて、下におろして、そうして開くと、熱くなった練習場のそれとは違う、廊下の冷たい空気がそこから入って、練習場の空気をかき乱していく。アーニャちゃんが、この部屋を出て行くのだと、はっきり、わかってしまった。
その背中に、なにも言えない、自分が、悔しくて。

アーニャちゃんが扉を閉めるその前にすこしだけ体をこちらに向けて、私を少し見る。宝石のような碧さが私を何度も、抉るように傷つける。
「…Когда-нибудь」

ドアが閉まる音が、聞いたこともない断頭台の刃が落ちる音のように、耳に響いた。聞こえないはずなのに、そんなもの。

止める物がなくなってしまえば、流れてくるままに落ちていくだけだった。誰も私を止めてくれる人はいない。

「ごめんね、アーニャちゃん、ごめんね、ごめんね、アーニャちゃん、ごめん、ごめんね」

自分の声が落ちて消える。酷い吐き気がした。何もかも吐き出してしまいたかった。

[newpage]


自分の心だけじゃなくて、体もおかしくなってしまったようだった。
もう太陽がめいいっぱい輝いている時間だというのに、カーテンが閉め切られた部屋に、その隙間から漏れる光が、あまりにも静かな部屋の床を、ただ明るくしている。机の上に置かれた体温計は、消える前までは、38.5という数字を示していた。どうやら私は、自分のことさえわからなくなってしまったようだ。体はおかしくなった自分にただただ正直で、喉も、頭の上の右側も、関節も、あるかもわからない心も、痛い。咳をする度に体が響くようだった。

私の痛みなんか素知らぬ振りで、時計の針はせっせと動き続けている。長い針が何度も短い針を追い抜いていくのも、見飽きてしまった。外は少し雨が降っているようで、ざぁざぁと雨がどこかに叩きつけられていく音がするけれど、窓とカーテンで仕切られたこの部屋からは、どんなふうに世界が濡れていくのか、わかりやしなかった。キッチンのシンクには洗い終わったコップが一つ置かれていて、それがなんだか今の私のようだった。バスルームは半開きのドアだけが見えて、閉めなきゃ、とぼんやりと頭では考えるけれど、体は一切動こうとしてくれなったから、もうすっかり諦めていたところだった。資格を勉強するために買ったたくさんの本たちも、アイドルを始めてから読んだ体調管理の本達も、もうなんだか活気を失っているようで、本棚に並んだ背表紙を一つ一つなぞって、本の中身を思い出すのもすぐに飽きてしまったのだ。
自分の机の上は見ないようにしていた。そこにあるものたちはわかりきっていた。ペンケース、昨日休んでしまった大学の講義のノート、何かあった時、いつもすぐに使ってきた付箋、そうして、プロジェクトのみんなの笑顔が写っている写真が綺麗に飾られている写真立て。また見てしまったら、それを見つめているうちに、また自分がどこかに行ってしまうような気がして、ずっと見ないようにしていたのだ。

心はこんなに痛いはずなのに、涙はもう流れてこなかった。泣けなかったのだ。アーニャちゃんが後ろを見せて私から離れてしまった時から、心が叫ぶように悲鳴を上げて、なんどもなんども泣きたい、吐き出してしまいたいと、泣こうとして、それでも涙は一滴たりとも流れてはこなかった。もしかしたら、もう心すら死んでしまったのかなと、ふと思う。心は死んでしまって、この感じる胸の痛みは、もっと別の、現実的な何かであるのかもしれなかった。それがなんなのかは、私には想像もつかなかったけれど。

そうだとしたら、もし本当に心が死んでしまっているのだとしたら、それは自分にとって幸いなことだと、と少しだけ冷静に判断する自分がいた。
心が死んでしまえば、何も感じることだってないはずだ。湿った毛布に毎朝ため息をつくことだって、悲しみにあふれてしまうことが怖くて、スマートフォンの画像フォルダを見ないようにするために写真を撮りたくなくなってしまうことだって、なくなるのだ。それはとても素敵なことのようだった。素敵じゃないのかもしれないけれど、今のこの私には、とてもとても素敵な、夢のようで。きっとそれを、壊れているというのかもしれない。
でも、本当に心が死んでしまったら。どうなるのだろうか。考える。綺麗な花を見ても、優しい映画を見ても、何も感じなくなるのだろうか。自分が今まで大切にしてきたものも、全部何もかも同じように見えてしまうのだろうか。友達、家族、シンデレラプロジェクトの仲間、そして、アーニャちゃん。みんながみんな、まるで同じように見えて、それを滑稽と笑うことすらしないような、そんな人間になってしまうのだろうか。

「いやだよ…」
思わず声が、漏れた。そんなのいやだよ、悲しいよとどこか他人ごとのように叫ぶ私の心は、やはり死んでいてはくれなかった。涙は、流れてこなかった。


死んでしまえれば、よかったのに。


[newpage]



時計の短針は確かに、一歩一歩が遅いけど、それでも確かに進んでいる。もう半周近く回ったそれが、ちょうど円の下をさしていた。
気がついたら眠ってしまったようだった。少し目を擦って、体を布団の中で少し動かしてみると、、頭のなかに鈍い痛みが走る。それでも大分体は軽くなっているような気がして、これなら明日からの練習は参加できるなと、なんだかとても的はずれなことを考えてみる。

そのまま体を起こしてみると、ぽと、と自分のおでこに乗っていたであろう何かが、自分の膝に落ちる。よく見なくてもわかる。これはいわゆる、濡れタオルというやつで。
「…なんで、これが」


「体、大丈夫ですか?」
ここから聞こえるはずもない声が聞こえて、急いで顔をあげると、アーニャちゃんが心配そうに見つめていた。相変わらずとても綺麗な彼女の顔は、どこかちょっとやつれているようにも見えた。いや、いま大切なことは、そういうことではなくて。
「どう、して」
当然の疑問を発した私に、アーニャちゃんは悪戯がバレて怒られているときの子どものような、申し訳なさと楽しさが混じったような顔をした。
「美波の鍵を取って、合鍵、作っておきました」
そうやってアーニャちゃんがぶら下げて私に見せたその鍵は、見るからに私の家の鍵にそっくりで。ちょっと違うところと言ったら、鍵についた小さなストラップホールについた小さな小物。
「そのストラップ、私とお揃いの、」
二人ではじめて一緒に出かけた時に買った、小さな雪の結晶のキーホルダー。なんだか私たちの曲みたいだねって言って買ったそれを、彼女がつけているところを見たことがなくて。
「はい、皆に、知られたくないので、これにつけてました」
ちょっとずるいような笑みを浮かべるアーニャちゃんが愛おしいと思えて、なんだか体のちからが抜ける。
「私とおそろいが嫌なのかと思っちゃってた、ごめんね、アーニャちゃん」
彼女はクスクスと笑うと、ふっと真剣な表情に戻った。そうしてもう一度ふわりと優しく微笑んだ。私の好きなあの笑顔だ。
「今まで、私は、美波に、いっぱいいっぱい優しくしてもらいました。もしかしたら、今まで、美波、私のせいで、傷ついてしまったのかもしれないです。そんなの、いやです。」
はじめてあった時のアーニャちゃんの、優しい声を思い出す。あのころの、ちょっと不安の混じった声をだす彼女はもういなくて、目の間にいるのは、強く、もっと優しくなった彼女で。
「話してください、私に、あなたのこと、全部」

「アーニャちゃんはいつも、優しいよね。最初に出たライブの時も、手を握ってくれて、あなたのおかげで、私は、歌うことができたの。ありがとう。」
ゆっくりと、ゆっくりと声を出す。ちょっとでも急いだら、感情がこぼれ落ちて、そのまま歯止めがかからなくなってしまいそうだったから。
「だからね、恩返しじゃないけれど、私ね、アーニャちゃんの支えに、なりたかったんだと思うの。一緒に仲間として、ラブライカとして、あなたを支えていけたらって。でもね、あのときに気づいたんだ、私は、あなたの支えなんかよりももっと大きなものに、あなたの大切なものになりたかったんだって。」
私の右手が、真剣な顔で私の言葉を聞くアーニャちゃんの頬に触れる。ちょっと他の人よりは低い体温でも、確かにそこに彼女を感じることができて、なんだかとても安心するのだ。すこし彼女の頬を撫でると、アーニャちゃんはこちらを見るようにその綺麗な目を見せたまま、猫のようにすりよってきた。私は体温が低いから、暖かい美波の手がとても安心するんです、と言ったアーニャちゃんのことを思い出す。出会ってから随分と長い月日が経っていた。
「だからね、あのとき、私が倒れてしまった時に、気づいたの。大切なものになろうとして、空回りしていたことに」
長い月日をかけて築き上げた彼女と私の絆に、もっと寄りかかって、力を抜いても良かったのかな。気を張りすぎて、忘れてしまっていたのだ。
「私は結局、自分のことしか」
すでにもう声はいつもの通りではいられなかった。彼女の右頬に触れていた私の手は、すこし震えている。アーニャちゃんは何も言わなかったけれど、私の右手に左手を重ねて、ひんやりとしたそれが気持ちいい。
「練習、もっとすれば、もっと強くなれるかな、って思ったけど。また、アーニャちゃんを傷つけちゃって」
ごめんね、突き飛ばして、痛かったよね、と、つげようとした声はもう声にならなかった。もう自分の2つの目からは涙がこぼれ落ちていて、震える言葉はそれでも止まらない。ふと優しく彼女の空いた右手が、私の背中に伸びていることに気づく。今日だけは、お姉さんになれなくて、ごめんね、って。
「ごめんね、一緒にフェスに出られなくて、ごめんね、支えてあげられなくて、ごめんね、ごめんね」
流れた涙がこぼれ落ちる前に、アーニャちゃんに優しく抱きしめられる。彼女の胸元を濡らす、涙が、なぜかとても愛おしかった。私は、やっと、泣けたんだ。
「ごめんね、私悔しかったの、」
もう言葉は言葉にならなくて、それでもアーニャちゃんは私を強く強く抱きしめてくれた。鼓動と、頭に触れる手の優しさと、握りしめてくれる彼女の手が、私の存在証明だ。
「ありがとう」


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