Sayonara VoyagE

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ウマ娘

lenses

夜明けのドアを叩いて
こうならないように歩いてきたのだ
― Cakes / Homecomings

 終電を逃した。グラスと二人で。
 どうしようもない合コンの頭数に巻き込まれて、すぐに帰るつもりだった。二次会までもつれ込んだのは、グラスに再会したからだ。いや、正確には、合コン相手を潰して遊んでいたからだけど。
 店に入ったときにつまらない男の自慢話が聞こえて、その向こうでつまらなそうに頷いている女の子の耳が見えたときに、もしかして、と思ったけれど、顔を上げた瞬間に確信した。その場で軽く目配せしたときに、グラスの目が大きく開いたのが面白かったけど、それを自分の話に興味があると勘違いした男がヒートアップを始めたし、私を席に案内することで必死な男の子達に囲まれてしまったので、私たちが話をしたのはそれから一時間後、グラスがお手洗いに立ってから、ちょうど良い時間を見計らって私が席を立ったあとのことだった。
 扉の向こうへと入ってしまえば、喧騒は曇って耳を貫かない。手を洗っているグラスの後ろに立つと、あの頃の面影の残ったままの不敵な笑みが鏡越しに映る。
「お久しぶりデスね」
「お久しぶりです、エル」
 彼女がゆっくりとハンカチを取り出している間に、まさかとは思いますけど、と、前置きをしながら話しかけた。
「本気で来てますか?」
「まさか、頭数合わせですよ」
「じゃあ、このあとどっかで飲みませんか?」
「そうしたいんですけど、真ん中の女の子、わかります?」
「あのおとなしそうな子?」
「そう。私たちが二次会を抜けるとあの子が連れてかれちゃいそうなんですよね。なんか妹さんが心配だから早く帰りたいのにって言ってて」
「なるほど、じゃあこうして遊びましょう」
 そうして、二次会へと移動して、飲み比べで男が潰れていくのを眺めていたら、終電を逃した。
 巻き込まれたであろう男の子が電話越しの彼女に怒られていたのは申し訳なかったけれど、彼に潰れた男の面倒を見てもらうことにして、私たちが飲んだ分程度のお金を払って(二人合わせてで四人よりも多かった)、席を立った。その時は余裕で帰れるつもりだったのだけれど、グラスが忘れた荷物を戻りに一度居酒屋に戻ったり、そのときに起きてきた二人目に潰した男の子を払ったりしていたら、終電を逃した。つまりは、グラスの言葉を借りれば、バチがあたった、ということで。


「私は最悪歩いて帰れますけど」
 グラスがそういうので、じゃあ互いに一番近い駅を、とすり合わせて行くと、二人とも同じ駅で降りれることに気づいた。急いで渋谷から新宿へ、新宿から私鉄へ。終電に揺られながら住んでいる場所の話をすると、最寄りが一駅違いであることに気がついた。秋の終電の中に漂う後悔の中で、私とグラスだけがどこか少し浮いていた。
 駅を降りて終電から吐き出されて、ようやく昔話ができた。冷え込む街を背にコンビニで飲み物を買って、マップで道を確かめながらゆっくりと歩く。
「いつ以来デスかね?去年の冬?」
「スペちゃんと三人で原宿で飲んだとき以来じゃないですか?」
「ああ、イタリアンの」
 グラスの歩幅が少しだけあの頃よりも狭くなっていたことに気がつく。言われなければ、彼女が帰国子女であることなど誰も気が付かないと思う。品のある歩き方は寝静まった住宅街を背景に、ミュージックビデオのワンシーンのように見えた。
「いつこちらに引っ越したんですか?」
「三ヶ月ぐらい前デスね。会社やめてフリーになったので」
「え、もうフリーになったんですか?」
「ええ、まあ」
 近況を話しながら、小さく歩を進める。グラスは両手でペットボトルの紅茶を持って指先を温めながら、そうですか、それはよいことで、といった。近況が仕事、生活、友人と一回りすると、話題は今日へと回帰する。
「しかし、グラスと合コンで会うとはねー」
「いろいろあって断れなくて。あなたに会えてなかったら完全に無駄足でしたね」
「それは同感デスねー」
 あらゆる角度から見てひどい会ではあったが、その酷さの半分程度を自分たちで作ったことは見ないふりをして、私たちは笑いあった。今頃彼らは反省会をしているのか、私たちの悪口で盛り上がっているのか。
「グラスは大丈夫なんデス?恋人とか」
「いませんよ、しばらく」
「へー、意外」
「あなたたちに会った直後に別れました」
「なるほど」
 多くは語らない彼女に、多くは聞かないことにする。グラスも恋多き人生を過ごしているな、と、友人として思う。どこか落ち着けばいいのだけれど、と思ったところで、これは自分にも帰ってくる言葉だな、と思う。
「まあ、アタシもしばらくそういう浮ついた話はないデスけどね」
「では、フリー同士なんですね」
 なるほど、とグラスは言った。何がなるほどなのかはわからなかったけれど、グラスはそれから顎に手をあてつつ黙り込んでしまったので、私に問う機会は与えられなかった。数秒の空白が街を走る。そこで、さっき缶ビールを買ってもよかった、と思った。ほうじ茶では酔えない。少しだけペットボトルを傾けたあと、喉は十分潤ってることに気がついた。まだ考えこんだままのグラスに向かって、私は口を開いた。
「じゃあ付き合っちゃいますか?」
 口に出してから、喉の奥がその言葉を取り戻したがるように乾いた。あまりの軽薄さに風も吹かない。ただ漂うだけのそれに目を奪われていると、消えた足音が響いている。一歩先を行くグラスがこちらを振り向くのが、コマ送りのように目に映る。
「なるほど」
「あの、冗談」
 グラスの目は笑っていない。どこかで逆鱗にふれただろうかと思い返しながら、私の口はうまく回らずに舌が絡まる。言い訳も紡げない間に、グラスは一歩踏み出した。
「なるほど、それはいいですね」
「あの、グラス?」
「エル、お付きあいしませんか?」
 その音に立ち止まってようやく、急速にコミュニケーションのステージが進んでいることに気づいた。それと同時に、酔いが冷めていくのもわかった。
 冗談のつもりだったのだけど。ありふれた言い訳は東京の夜に吸われて、声にもならなかった。少しずつ厳しく寂しくなる季節を先取りするかのように、夜は冷たくなっていく。寒さに負けないようにと前へと向かっていたはず四本の足は、気がつけば前を向くこともやめて、半分はしっかりと、もう半分は落ち着きなく動いている。
 逃した視線の先、そのみっともなさに気づいた私が動きを止めても、不安定な心はバランスをなくしてまたふらつく。重心を合わせるように顔をあげると、二つの目に射抜かれている。
 これだけ真剣に見つめられたのはいつのことか。あの頃のような熱い眼差しを向けられることも、向けることもなくなったはずだった。どこか社会的な欲望が含まれた目配せとも、隠しきれていない願望が渦巻く目線とも違う、ただ真っ直ぐな眼差し。
 私を超える炎があるのかもしれないと、初めて思ったときのことを思い出しながら、美しい白い肌を前に言い訳は拙く組み上がっていく。
「いや、グラス、アタシはデスね」
「フリーなんですよね?」
「なんでそんなグイグイ押してくるんデスか」
「なんででしょうね、ここで押しておかないと行けない気がして」
「直感かぁ」
「ええ。ここで逃してはいけないと、私の直感がそう告げています」
 ふざけた言葉の尾を踏んでまで、グラスは私のテリトリーへと踏み込む。思わずあとずさりそうになる脚を真っ白なガードレールが拒んだ。逃げられもしない夜の中で、私はグラスの感情の直球を喰らう。
「エルがどうなのか知りませんけど、わたしはあなたと特別な関係になりたい。あなたの望まないようなことはしません。エルに好きな人ができたならそこまででもいい。私のこの衝動の正体がわかるまで、私とお付き合いしてくれませんか?」
 率直に言えば、それは気に食わない物言いだった。グラスが!あのグラスが、それがなんであれ、諦めることを未来に見据えているなど。言葉と記憶の間に横たわる時間の長さが、私の回らない頭を埋め尽くした。その長い年月が唇を冷たくなぞって、同情に似た感情を塗りたくった。それを剥がすように唇を強く噛んでから、感情に染まらないように慎重に言葉を選ぶ。
「まあ、グラスがそこまで執着することに興味はありますよ」
「でしょう?」
「でも、グラスのことをぶっちゃけ恋愛対象としとはみれないデス」
「いいんですよ、私も見てないですから」
「エェ」
「それも嘘ですね。普通に好きです。でも、返してもらわないと気が済まないっていう感情じゃないので」
「なるほど……。なるほど?」
「エルはお試しで付き合ってあげたことないんですか?」
「グラスはあるの?」
「ありますよ」
「あるんだ」
「まあとにかく、そのイメージで構わないので」
 どういうイメージなのか、わからなかった。息遣いも聞こえそうなこの暗闇の中では、目に見えるもの以外を想像することは難しい。幾度か目を閉じてみても、焼きついたままの目の前が瞼の裏にも色移りしている。しかし、今さら逃げ切るにはポジションが悪すぎた、と思う。これが駆け引きだとわかっていたなら、そもそも日が昇るまであの街に居ればよかった、と、いまさらどうにもならないことを後悔する。レースではないから諦めて差し切られることにして、小さくうなづいた。それが了承を意味していることはわかっていても、うまい言い訳は思い浮かばなかった。
「ではそういうことで。帰りましょうか」
 そういって歩き出した彼女の半歩後をついていく。どういうことなのかは聞けかなかった。歩き出したときは気にも留めなかった一キロメートルが、足の後ろに張り付いて、私は引きずるように足跡を残した。黙って揃いながら同じ街にある違う家に帰るのは、人間の学生同士の恋愛のようだと思った。そういう恋愛が私たちを作っていた可能性を考えて、首を振った。それを想像するには夜が深すぎた。
 路地で分かれるときのさようならに、言葉が出なくて立ち止まるだけの私に、グラスは小さく笑って自分の家へと帰っていく。彼女の尾が小さく揺れるのを眺めながら、こういう時にも背中を見せてくれる相手がいたことは幸運なのかもしれないとふと思った。そうして同時に、酔いすぎていたことを思い出した。
 届いていた不在通知を手に取る頃には、忘れていたはずの彼女のことを、ベッドに潜った瞬間に思い出したのは不幸だと思った。


『今日はお休みなんですよね。デートしましょうか。行きたい美術展があるんです』
 昨日の夜の冷たさがそのまま届けられたような朝だった。倦怠感を抱えたまま、嘘だったかもしれないと目を覚ました私の希望的観測を、スマートフォンの画面が打ち砕く。寝起きの頭で現実を受け止めたくなくて、ブルーライトを遮るように伏せると、思ったよりも大きな音がしてひやりとした。
 できるだけ時間を稼ぎたくて、いつもより幾許か丁寧にした朝の支度も、朝食の準備も、気づけば終わってしまっていた。思い出したくない昨夜の記憶の火がちらつく度に、作業を進める手を動かしていたせいで、結局平日の朝と同じような速さで朝が終わる。
 どこかもったいなく思いながら、入れたコーヒーを手元にスマートフォンをひっくり返すと、彼女からの追伸は来ていないようだった。コーヒーに口をつけるか、メッセージを返すか迷って、一度口元に運んだマグカップを唇は熱で拒否した。仕方なくメッセージを開いて、彼女に返信を送る。
『いいですけど、どこですか?』
『直接会って話しますね』
 首を傾げる前にチャイムが部屋へと響く。打ちかけの『どういうこと』が自分の体内をめぐるのを感じながらインターフォンを覗くと、液晶には半日も経たないはずのグラスワンダーが再会を待ち構えていた。酔っ払った勢いで終電の中で住所の交換を提案したことを思い出して、心の底から後悔した。鬼。彼女にかつて放った言葉が自分に巡ってくるかのような因果を感じながら、通話ボタンを押す。
「あの」
『エル?起きてるみたいですね。お迎えにきました』
「いや、あの」
『入ってもいいですか?』
 「いや」「ちょっと待って」「昨日言って」。いくつかの選択肢は、画面越しの彼女の髪を乱した風によって吹き飛ばされてしまった。部屋の中にはもう見つからないその答えを恨めしく思いながら口を開くと、いつもよりもぶっきらぼうな言葉が出る。
「開けますけど、支度があるので部屋の前で待っててください」
 解錠ボタンを押した指は、そのまま通話を途切れさせた。小さく息を吐きながら、自分の城を見渡した。これからこの城に彼女がやってくるのだと思うと、もう一度ため息をついてしまった。机の上にある本の向きを無駄に整えたりしていると、緊張したままの耳が彼女の音を捉えた。小さく上品なノックに、聞こえないぐらいの声で「はぁい」と返事をして、ノロノロと玄関へと向かう。
 念の為、ドアスコープを覗くと、髪の毛を気にしながらドアを見つめるグラスが立っていた。昨日よりも気合が入った格好に思わず笑いそうになる。どこか面倒そうにジョッキを傾けていた再会の場面が脳裏に浮かぶ。あれからまだ二十四時間も経っていないことに驚いていると、向こう側から「エル?」と小さな声がした。
「今開けまーす」
 起きた時よりは緩やかになった心で扉を開くと、秋空と太陽を背にしてグラスは笑っていた。ドアを開く手が少し緩みそうになって、一度足に力を入れながらもう一度大きく広げると、グラスは隙間をぬうようにするりと私の家の中に滑りこんだ。
「すいません、急にきちゃって」
「本当にすいませんって思ってます?」
「少しは」
「少しって」
 扉が閉まる音と、笑い声が混じり合う。少しの間に見つめ合ったあと、なぜか敗北感を抱えながらグラスに靴を脱ぐように身振りした。
「まあ上がってください」
 私が鍵を閉める間に、グラスは靴を揃えていた。こういう性質は変わっていないようで安心する。海外に行く前に、一人で生活できるか心配になったこともあったことを思い出す。今思えば、十分な思い上がりだった。あるべきものなどないのに。
 過去を思い返しながら、ダイニングキッチンへの扉を開いた。見慣れたはずの自分の部屋が、後ろに立つ人のためか妙に眩しい。目を細めて、自分のカップを置きっぱなしにしていることに気づく。
「何か飲みますか?アタシはコーヒーを飲みますが」
 質問には答えずに、グラスは私の城を見渡している。少しだけ居心地の悪さを感じながら、紅茶なんかもありますよと、私が伝える前に、グラスは楽しそうにつぶやいた。
「エルの匂いがしますね」
「ケ!?」
 後ずさった私に、グラスは今度は少し意地悪そうに笑った。狙われた、と気づいても、いつもの軽口は出てこなかった。攻められる側の気持ちになって初めて、駆け引きを難しいと思う。動揺している私に満足したのか、グラスは座りますね、と椅子を引いた。
「寮だと、私と混ざっていましたから。こうしてあなただけの匂いがあるのは、不思議な感じです」
「いや解説を求めてるんじゃなくて」
 現実とは思えない景色が目の前に映っても、口だけは勝手に動いていく。いくつもある日々の想像の中でも、グラスと私の城を組み合わせたことはなかった。まだ寝ぼけているのかもしれない、とかるくこすった瞳では、飄々としたままのグラスが口を開いていた。
「飲み物はお構いなく」
 そういうわけにも、といって、私は一目散にキッチンへと逃げ込んだ。ケトルの前でお湯が沸くのを真剣に眺めているフリをしながら小さく振り返れば、何をするでもなく借りてきた猫のように、というには少し堂々としすぎている恋人の姿が見える。
 昨夜の記憶と、展開の速さを思い出して目まぐるしく頭は回っていても、ガスの炎によって温められた心は、正常な温度を取り戻していく。ケトルが良い音を鳴らし始めるころには、あんまりな態度だったかもしれない、と反省した。招き入れたのは私なのだから、持て余すのは間違いだ。せめてもう少しましなもてなしを、と、ティーバッグをしまってフィルターを出した私に、後ろから足音が近づいた。
「コーヒーですか?」
「座ってていいよ」
 頷きながらそう聞き返すと、いえ、私が見たいだけですから、とグラスは言って、私の少し後ろに立った。昔のことを思いだすような距離感だった。コーヒーの粉を湿らせながら、昨日再開してから初めて落ち着いた距離にいると思えた。
 狭いキッチンの中で二人の体はすれ違う。私の尾が彼女に触れないようにと下ろしたときに、グラスは小さく息をこぼした。
「別に断ってくれてもいいんですよ、昨日のは酔いに任せてあなたの失言につけ込んだのですから。不誠実でしたね」
 こんなに落ち着いているからだからだろうか。気丈そうにそう告げる言葉から初めて、彼女の弱さを感じた。遠くに離れても感じなかったその弱さは、朝になって初めて、焦点があうかのように聞き取ることのできたその感情に寄り添うべきか、見なかったふりをするべきなのか。
 失言、だったのだろうか、と思う。確かに展開の速さに慌てた部分もあった。それよりも、たしかにあの言葉を何の気無しに口にした途端、何かが。違和感の正体にたどり着く前に、言葉は軽やかに飛んでいく。
「グラスが酔うことなんてあります?」
「ありますよ私だって」
「前呑んだときはザルでしたけどね」
「お酒の問題じゃなくて、あなたが隣にいたからですよ」
 彼女の飄々とした態度に頭を抱えながら、振り向かないように注意する。絆されたくなかった。どういう表情をしていても、私にとってグラスはグラスだ。言葉に逸らされた視線を表情に捉えれられたら人たまりもない。黙り込んだ私のことは気にせずに、まあ、ですから、とグラスは隣に立って続けた。
「なかったことにもできますよ、という話です」
 グラスの言葉はコーヒーを湿らせる少しの熱湯のように私の体を広がっていった。ここで断ち切って終わりにすることもできるわけだ、と思った。一夜の過ち。そういうものがあっただけだと、そうすることを選ぶこともできる。
「なるほど、つまり、グラスはビビってるんですか?」
「エールー?」
「痛い痛い耳はやめてコーヒーが薄くなります」
 ほんの三秒で離された耳を大げさに抑えれば、グラスの寂しさは逃げ出すようにと部屋の外へ消えてしまった。二人で揃って笑って、フィルターを捨てる。
 やめるという選択肢は、そのフィルターか、消えていった笑い声か、それともこの部屋の空気かに消えていった。
 カップにコーヒーを注ぎながら、私は最後になるであろう確認をする。
「それで、グラスはアタシが別れたいって言ったら別れるんデスか?」
「あんまり、そのつもりはないですね。一度言ったことは嘘にしたくありませんし」
 それに、と、グラスは、私の方を見た。
「あなたは私を置いていったのだから」
「……本気で言ってます?」
「冗談ですよ。もう十年も前の話です」
 カップを渡しながら問う私に、グラスは半笑いを浮かべた。テーブルへと置いてきたカップに後悔した。どれだけ冷めてまずいコーヒーでも、私の口元から複雑な感情を隠すぐらいの役割はできただろう。向こうのテーブルを眺める私を笑って、グラスは言葉をつづける。
「まあでも、今あなたを付き合わせる権利ぐらいはあると思っていますよ」
 そう言ってマグカップを傾けたグラスの感情は、コーヒーから上る湯気に隠されてぼやけていった。


 その日は予定通り美術館に行った。
 明治時代の画家の絵を楽しそうに見るグラスにからかいを交えて言葉を投げていると、時には早く時には柔らかにボールが返されて心地よかった。
 時折グラスの指が寂しげに揺れていたけれど、あえて気づかないふりをした。
 同じ駅で降りた彼女の手を握ると、グラスの頬は秋の夕方でもわかるぐらい赤く染まった。
 何が「期待していない」だ。
 馬鹿じゃないかと思う。


 それからというものの、幾度かデートを重ねた。一週間もすれば過去の距離感を取り戻していた。駅で待ち合わせたグラスと合うのは変な感じがした。グラスと待ち合わせるという概念自体が、あの学園を抜けてから生まれたもので。あの頃のように同じ部屋で暮らさない代わりに、互いの部屋に泊まったりもした。
 東京は誰でも上手に隠してくれるから、私たちが恋をしていることを隠す必要も見せる必要もなかった。ただ手をつないで歩いた。
 手のひらからすぐにげ出してしまう秋を追い越さないように、長袖は着なかった。
 日々が深まって、会う感覚が次第に短くなっていくにつれて、どうしてこうなったのか、わからなくなっていく。


「結局のところ、確かめたいことってなんだったんデスか?」
 こらえきれずに私がそれを口に出したとき、グラスはあまりにも肉を焼くことに集中していたものだから、そもそも私が口を開いたことにすら気づいていなかった。ビル二階食べ放題四千円の焼き肉店では、情緒のない炎が部屋のあちこちで散らばって、秋が終わることなど誰も信じていないかのようだ。私の声がしたことに気づいたグラスがゆっくりと顔を上げる向こうでは、都会を足早に通り過ぎていく冬の人たちが窓ガラス越しに映る。
「なにか言いました?」
 そう聞き返されて、もう一度口を開く気はとうに失せていた。そもそも、半径二メートルの中に他人が混じっている中で聞くにしては内側から出すぎた質問だった。私は一秒の間になにか別の言葉を探してみるけれど、見つかりそうもないことに気づく。
「いえ、何も」
「そうですか。タン、ちょうどいい感じですよ」
 外から見ればどこか普通じゃない私の態度には目もくれず、グラスはタンを私の皿へと丁寧に載せた。ありがとうの返事をしながら、学生時代はもう少し尽くされる側の人間というか、どうしようもないところがあったようにも思う。はっきりとしたそのトングの動きに、私はどこか見たこともない彼女の昔の恋人たちについて考える。思考の突拍子もなさに比例した軽薄な言葉が生まれる。
「グラスも尽くすようになりましたね」
 私がそういうと、グラスは私を一睨みしたあと、まだ一枚残っていたカルビを自分の方で焼きながら、いや、と言う。
「あなたがしっかりしてないからですけど」
「アタシ?」
「ここ最近ずっとそうですよ。何か聞きたいことがあるんじゃないですか?」
 タンを口に含みながらまず思ったことは、見られていたのか、ということだった。それなりに時間が経ってお互いに変わっていることはわかっているつもりだったけれど、どこかグラスは気づかないままだろうと思っていたのに。侮っていたのか、それとも騙されていたのか。複雑なバランスを保ちながら揺れる感情を感じながら、私は観念して口を開く。
「グラスが付き合うときに、確かめたいことがあるって言ってたじゃないですか」
「確かめたいこと?」
 グラスは少し大げさに首をかしげてオウム返しをする。かわいいな、と思う。それと同時に、どこかやりきれない気持ちになる。つばを飲み込んで、レモンサワーを流して言葉を選ぶ。
「確かめたいっていうか、衝動の正体、みたいなの、あれ、なんだかわかりました?」
 あの夜のグラスの言葉を思い出す。それがわかるということは、この関係を続ける意味がなくなる、ということだった。今すぐ終わるわけではないだろうけど。少しずつ金網が冷めていくみたいに、マグカップから湯気が消えていくみたいに、少しずつ距離ができていくことになるだろう。それを自分から口に出すのは、終わりを望んでいるような気がして、どこか怖い。
 私の言葉の意味をどう捉えたのはわからないが、グラスは私と目を合わせることをやめた。頼んでいたサラダをつつくことをやめて、トングを威嚇のように鳴らしながらふてくされたような声を出す。
「エルに好きな人ができたなら、すぐ言ってくれていいですよ」
「ここ最近はほとんど毎日会ってるのに他に好きな人ができると思います?」
「知りませんけど、会社の人とか」
「社内恋愛はしない主義なんで」
「レスラーの人とか?それとも私と会う時間を減らして新しい恋を増やしたいんですか?」
「いや流石に、というかそういうわけではなくてですね」
 ネガティブに走り始めた彼女の思考を止めるためにトングを奪うと、いい感じにやけていたカルビを彼女に押し付けた。彼女は黙ってそれを受け取って食べる。ゆっくりとそれを噛み下すころには油によって幸福になった彼女がいた。
「考えてなかったですね、それのこと。エルと過ごすのが楽しくて」
「……そう」
 当てられたな、と思う。彼女の言葉はいつでも真っ直ぐだ。少しずつ言葉にできるようになったその情熱が、躊躇わずに私へと向かってくる。恋特有のくすぐったい気持ちに、どこか悲しさが混じっていく。
 私のその悲しみを隠すかのように、煙がまた上がる。外を行く人の息が白くなって、今日の気温が五度を下回ったことを思い出した。


 それからも、同じように日々は繋いだ。十一月が街のメロディを少しずつ冷たくしていく中を、二人で厚着をして抜けていくように過ごした。それでも、何も変わらなかったわけじゃなかった。グラスはふとした瞬間に、立ち止まることが多くなった。そうして、少しだけ昔の話をした。あの頃の話、情熱の話。
 二人でレース場にも行った。天皇賞秋を二人で並んで見た。あの頃と同じように声を上げながら、走り抜けていく彼女たちを見ていた。ターフには、私が子供の頃、あこがれた人の子も立っていた。二千メートル、その長さと、時間の長さが重なったようにも思えた。
 レースが終わっても、人生は続いていく。それはわかっているはずだったけれど、今思えばあの瞬間がゴールだったんじゃないかと、そう思う瞬間だっていくつもある。ゴールをとっくに駆け抜けてしまったとしたら、私たちはどこへ向かうんだろう?
 帰り道でつないだ手の確かさに、余計に途方にくれてしまった。
 グラスはそんな私をおいて、少しずつ自分の感情の答えへと近づいているようだった。
 ほどかれた手の平から消えたぬくもりよりも、その答えが見つかってしまう日のことを恐れていた。
 どうしてだろうか。
 別に特別になんか、なりたくなかったはずなのに。


 今日のデートは映画だった。十二月だというのに、どこか残る秋の気配が、厳しい冷たさを教えるような、そんな日のことだった。どこか泣くために作られているような白々しさのなかに、ときおり切実さが映る不思議な映画を見た。横目に映るグラスは泣きも笑いもせずにただ画面を見つめていたけれど、映画館を抜けるときによかったですね、と話しかけてきたので、少なくともお気にはめしたらしい。ブランチのあと二時間のタイムスリップを経て、都会は少し太陽の香りが混じる。偶然揃った平日の午後をこれで終えるのは勿体ないと、二人で公園へと向かった。
 洋蘭がみたいのだという。公園併設の植物園は冬であろうと温かい。乾いていた皮膚へゆっくりと湿度が乗るのを感じながら、ゴシックで示された道を進んでいく。
「さっきの映画にもこういうシーンがありましたね」
 私が未だにわからない花の愛で方を模索してスマートフォンを覗き込んでいる間に、彼女は半歩先で私と花を見つめていた。これも思い出になるのだろうか、彼女の中で、と思いながら、私は同時にさっきまでの映画のことを思い出していた。
「ラストシーンの手前デスか?二人が別れ話をする」
「そう、それです。二人で育てた花を見つめるシーン」
 暗い話をするものだ、と思った。レンズを通せば愛おしく見えるかと思えた花たちも、美しいままで変わりはしないことに諦めをつけて、私はそうですね、とだけ告げた。写真も撮らずに歩き始めた私に問うこともせず、グラスは私の少し狭い歩幅に合わせて歩き始める。
「ああいう美しい失恋はしたことがないので、羨ましかったです」
 そういって目を細める彼女の横顔の向こうで、赤い花びらが揺れる。そのときポケットにしまったばかりの重みを後悔しながら、しかしたとえその重みが私の手のひらにあったとしても、その一瞬を切り取れたわけでもないだろうとわかった私は、その美しい光景を壊すことにした。
「どういう別れ方をしてきたんデス?」
「一番面白かったのはクリスマスツリーが折れたときのやつですね」
「そんなことある?」
「あるんですね、それが」
 それから私たちは植物園らしく簡素に飾られた日本各地の花を見ながら、一番記憶に残っている失恋の話をした。グラスはクリスマスに相手の不貞現場を目撃して、その場で二人で作ったクリスマスツリーを蹴り飛ばして折ってしまったらしい。「折れたときじゃなくて、折ったんじゃん」と私が言うと、そうとも言いますね、でもそんなつもりはなくて、折れてしまっただけなんですと、グラスは言った。
 蘭に囲まれて笑い話を続けながら、私は映画のことを思い出していた。エンドロールのあとに気丈に新たな生活を始める二人が映っていたことを考えていた。あの前向きな背中に、どれほどの思い出が乗っているのだろうか。
 咲き誇った洋蘭も少なくなっていき、結露で読みづらくなった展示パネルに目を細めながら口を開いた。
「ああ、でも、あなたと別れるときがきたら、美しく終われそうな気はします」
 そういって微笑んだ彼女は、どんな花よりも残酷だった。
 自動ドアの向こうからは、乾いた風が向かってくる。暖かな楽園から追い出された私たちは、屋内を目指してカフェへと向かう。
 平日の昼下がり、公園は様々な人で賑わう。ベンチで目を閉じる人、芝生をかける子ども、手を繋ぐ恋人たち。そういう中で言葉もなく歩く私たちは、一体何に見えるのだろうか。芝生へと足を踏み入れながら、私は考える。本当のことを言えば、何に見えるかなどはどうでもよかった。私たちはなんなのだろう?答えは私たちだけが知っているはずなのに、私たちで話し合ったところで答えなど出ないであろうこともわかっていた。
「思えば、付き合い始めてからもう二ヶ月ですか」
 グラスの言葉に足を止めた。嫌な映画だったな、と思った。悪い映画ではなかった。だけれど、終わったことを肯定するそのさまが、気に食わなかった。終わっても人生は続く。恋であるのなら、それでもよかったと思う。
「あのとき、なんであなたをあんなに引き止めたのか、ようやくわかりました」
 野原は東京の中でも十分に広くて、各々がそれぞれのスペースで笑いあっている。私とグラスの間には、ちょうど触れられないぐらいの距離があいた。彼女の眼差しの向こうで、ビルたちが夕焼けのきらめきを受け取って波打っている。
「あなたが、私に寂しいと、喜びのいくつかと、そしておそらく、初恋を教えてくれたからですよ、エル」
 そういうグラスを見たくなくて、顔を上げた先では飛行機雲がうっすらとした雲の中を走り抜けていた。恋であるなら、恋だけなら、それでよかった。
「あなたと過ごすのは、初恋が叶ったみたいでした」
 だけれど、ここから人生は続いてく。私は先を見つめている。私の中にある何かが、今ここで燃え尽きようとしているのがわかる。
 どうしてそんなに簡単に、思い出にできてしまうの?
 思えばグラスは昔からそうだった。どこか夢見がちな少女だった。強く激しい炎の奥に、危うさが見えて目が離せなかった。いくつもの人から炎をもらって生きていた。この冬に美しく恋が終われば、それもきっと彼女の炎の一つになるんだろう。
「なんでエルが泣いてるんですか」
 その柔らかい声に導かれた私の手が濡れて、初めて涙を流していることに気がついた。私の意思の届かない私の動きに、私は初めて、悲しいのかもしれない、と思った。
「あれ、なんで」
 覚束ない手がいつ覚えたのかもわからないようにただ涙を拭っても、一度溢れたものは止まりはしない。落ちた涙は吹いた風に乾いて、変わる季節を告げていく。冷える頬を温める方法も知らないまま、ただ目の奥に映るビルが歪んで崩れていくのを眺めている。
「ああ、もう、こすっちゃだめですよ」
 どこか懐かしい音がして、グラスは私の手を掴んだ。そういって触れるグラスのハンカチの柔らかさと、その存在の気配に、私はもう一度泣くことにした。彼女に少しだけ体を預けながら、彼女の赤いハンカチを濡らす。
 うつむいたままでいいと思えた。みっともなくてもかまわないと思えた。ただ小さく寄りかかる私の背中を、グラスは慣れたように指で撫でた。こうしていても思い出になるのだと思って、もう一度涙があふれる。
「とりあえず、飲物でも飲みましょう」
 そういって自動販売機を探すグラスに手を引かれて、ゆっくりと二人だけの世界から逃れていく。少しずつ聞こえてくる誰かの声に涙が消えていっても、私は彼女の体に寄りかかったままだった。できることならなくしたくないこの熱源を、少しでもそばで感じていたかった。
 ビルの中へと連れられたあと、ふと空を見上げると、あの飛行機雲は隠されていた。


 あまりにも散々に泣いてしまったから、恥ずかしくて泊まりには行けなかった。それでも夜になれば寂しくて、電話をかけてしまう。
 グラスはずっと優しかった。何故泣いたのかも聞かずにただ昔の話と今の話をしてくれた。一度崩れてしまった境界は歪んだままで、私はいろんなことで泣いた。長い年月で泣いた。いなくなった友人で泣いた。未来のことで泣いて、そのたびにグラスは気づいてくれた。
 弱虫な自分を思い出して、恥ずかしくなったけれど、電話を切ることはできなかった。終わった瞬間から思い出になりそうな気がした。そんなわけはないのに。
『初めてあった頃から、あなたは気丈なフリばかりしていましたね』
 幾度目かの涙のあと、喉の枯れた私に変わって、グラスは優しく話す。あやされているような気がしても、電話越しにそれを止める方法はないふりをして、グラスの言葉を聞き続ける。
『一緒に暮らしていた頃は、あなたに優しい言葉はかけられなかったけれど。今は生きるために、そういう夜があってもいいと思いますよ』
 その声の暖かさに、私は昔のことを思い出していた。初めて会った日のこと。遠く離れて初めて、私はあなたが何かがわかった。『おやすみなさい』の声がして、私は長い時間をかけて過去を巡っていたことに気がつく。
「そうか、グラス、あなたは」
 私の最初の炎。
 そのゆらめきを瞼の裏に焼き付けて、私はゆっくりと眠りに落ちた。


 目を覚ました瞬間からすでに、言わなければけないことが頭の中をかすめていた。目を背けるように朝食の準備をすると、目玉焼きを焼きすぎた。固くなった黄身をため息をついて食べ終えてから、グラスに電話をかける。心の準備をする時間がほしいと思いながら掛けた電話は、いつも二、三のコールでつながってしまう。
『もしもし?』
 どこか寝ぼけた声がして、私の心臓は少しだけ抑えられたような気持ちになる。あれだけ話したというのに、まだ伝えていないことがあるなんて、どうしてだろう、と私は思いながら、なるべくゆっくりと話しかける。
「グラス、おはようございます」
『エル?』
 少しだけ目を覚ましたのか、グラスの声の輪郭が少しだけはっきりとする。
「はい、そうデス」
『あの、大丈夫ですか?』
 彼女の声はいつもと同じように響く。彼女の優しさは昨日の夜から眠ることなく走ってきたかのように、どこか疲れていて、それだからまっすぐだ。
「ええ、大丈夫」
 彼女の優しさをいたわるかのように、私の口からするりと飛び出したその言葉が走り切るのを私は勇気を出して捕まえた。少しだけ息を吸って、ずっと伝えたかったことを言う。
「……じゃないかもしれないデス」
 入れたばかりのコーヒーがたてる湯気の向こうの窓ガラスで、俯いた私が顔を上げた。結露を拭いたばかりの窓ガラスに映る水滴が光を弾いている。分散した光の向こう側で、私はどう映っているのだろうか。わからないから、確かめるしかない。
「グラスにとって、アタシは思い出になっちゃったかもしれないけど」
 思わず、疑いたくなるほど、自分の声はすねていた。私の不機嫌さを電話越しに見つけたのか、グラスは笑った。
『寂しさが思い出になることなんて、ありませんよ』
 穏やかな言葉に織り込まれた寂しさが、あのときの空港を思い出させた。あの頃は決意だけを見つめていたその瞳の中に、きっと今と同じように寂しさが輝いていたんだろう。私と同じ。グラスを作る感情の炎に私が不可分に混ざり合っているのと同じように、私を作る情熱の炎の中にもグラスが不可分に混ざり合っている。
 グラスがどれくらい私を作っているのか、私にはもうわからなかった。あの炎を見たときから、もう長い年月が経っていた。競い合った。別れもした。そういう瞬間のそれぞれの痛みと喜びが、私のあちこちへとばら撒かれて、私の今を作り上げている。失いたくなかった。この体のどこかで燃える感情たちの向こうで今も私に熱をくれる彼女の瞳を、できるだけそばで見つめていたい。
 私はコーヒーを一口飲んで、仮定の話を始める。
「もしも、あの夜グラスが、付き合ってって言わなければ、こんな気持ちにはならなかったでしょうね」
 グラスが相槌の代わりこぼす言葉が、穏やかに私の耳へと伝わって、私の決意になる。
「でも、手に入れてしまったから、なくしたくない。離れたくない。あなたの思い出になんて、なりたくない」
 自分でそれを手放せるほど、欲がないわけがない。泣いたりしてみせたのに、答えはこんなに欲張りだった。自分の欲深さに笑ってみても、罪が晴れたりはしない。だから、ここで。
「だから、グラス」
『エル、ありがとう』
 私の声を遮って、グラスは笑った。
 そうして彼女はいう。少し悪戯で、負けず嫌いで、柔らかな声で。
『でも、それ以上は直接聞きたいです』

 スマートフォンを手放さずに部屋の扉を開けた。
 エントランスを抜けると、吐く息が白かった。目の前がぼやけて、上手に見えなくなる。
 なにもなくさないように、電話は繋いだままで歩く。


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